ジョイナス最後の戦い

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永宮幸というキャラクターについて②

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 上の記事のつづき。

 

 深水透子や沖倉駆と違い、永宮幸は「キラキラしたもの(=未来のかけら)」を見ることができない。そんな彼女に疑似的に「キラキラしたもの」を見せるのが白崎祐である。

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  1話冒頭で(一緒に)打ち上げ花火を見られなかった幸のために、祐はスマホのライトの点滅(1話)、線香花火(6話)を見せる。幸はそれらを3Dメガネ越しに見つめる。

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 祐が幸に見せた打ち上げ花火の代用物は、疑似的な「キラキラしたもの」でもある。もちろん祐が見せる「キラキラしたもの」は幸が見たいそれ(=未来のかけら)ではない。

 また、祐が幸に見せる「キラキラしたもの」は1話で幸が「みんな」と見られなかった花火の代わりでもある。幸は「みんな」と花火が見たかったわけで、これも幸の望むものではないかもしれない。

 それでも幸は祐の助けを借りて「キラキラしたもの」を見ることができたという事実は否定しようがない。彼女はひとりでは「キラキラしたもの」のまがい物すら見られなかったわけだから。祐は幸の望みを叶えたとは言えないが、彼女の心に触れる行動をとったといえる。

 祐という字は「助ける」という意味を持つ。祐は幸の手助けをしたわけだが、それは彼にとって全くの想定外。彼は幸に好かれたかっただけで、彼女を助けたいとか心の底にあるものを理解したいとかは考えていなかったはずである。

 

f:id:joinus_fantotomoni:20160417191800j:plain 3話で「いつも良くしてくれるお礼」と言い、幸は祐に「追放と王国」の文庫本を渡す。もちろん「追放と王国」は単なる「お礼」ではない。

 「追放と王国」はカミュの短編集。4話で二人は「追放と王国」の映画を見に行くが彼らが見たものはそのうちの一編「不貞」だ。「不貞」のラストで、主人公の中年女性ジャニーヌは涙を流しながら夫に対し「何でも…何でもないの」と言う(4話ラストで幸が見入っている映画のシーンもこの個所だ)。涙を流さざるをえないような想いをしているにも関わらず、夫に対して「何でもないの」と言うしかないジャニーヌに自分を重ねたのだろう。グループの中で疎外感を抱きながらも、何も言えない自分を。

 事あるごとに自分に良くしてくれる祐なら「追放と王国」を通じて、そんな自分の心の底に気付いてくれるのではないだろうか。そこまでたどり着けなかったとしても「何でも…何でもないの」と涙を流すジャニーヌに何かを感じてくれるではないだろうか。しかし結果として祐は気付いてくれなかった。そのあたりの話は下の記事を参照してもらいたい。

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 7話で透子は幸と祐が病室で一緒に過ごしている光景を映した「未来のかけら」を見ることとなる。それを透子は「幸と祐の仲が進展する未来」と受け止める。その「未来のかけら」で祐は愛おしそうに幸の方を見つめていて、幸は本を読んで微笑んでいる。彼らの視線の先にあるものは違う。

 幸は期待をこめて祐に「追放と王国」を貸した。祐は自分に好意を抱いてくれてはいるものの、本を通じて彼女の心の底にあるものに気付くことができなかった。結局幸は、自分と似たような体験をした本の登場人物に共感を求めるしかない。

 透子が見た「未来のかけら」は、仲睦まじい幸と祐の様子ではなく、むしろ二人の意識のズレを物語っているのではないだろうか。幸は病室に祐を招き入れているが、彼女の視線は依然本に向けられたままなのだ。祐は幸の方を見ているが、それは幸の外面を見ているということにすぎない。

 祐は2話で幸に告白しようとした際に「いつも熱心に本を読んでいる君の姿がとても素敵で、それはまるでお人形さんのようだと…」というセリフを用意していた。「お人形さんのよう」と称された幸は石膏像扱いされた駆と同じで、周囲は彼らに心があるという事実をどこか軽んじている。それは幸に好意を抱きながらも、外面しか見えていなかった祐も例外ではないのだ。

 

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  祐に理解されないまま独り感情を押し殺し続けるしかない幸だったが、そんな彼女にも限界が訪れた。「未来のかけら」の正体を知るために駆と海に行くという透子の話を聞き、幸は透子を自分から奪おうとする駆への憎しみを募らせる。幸は負の感情を抑えきれず、駆たちの邪魔をする。そして祐の好意を最悪の形で利用してしまい、それを知った祐を傷つけることとなる。

 

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 幸に利用され、傷つけられた祐。しかしそれは、幸に傷つけられるまで彼女の心の底に鬱屈していた感情に気付けなかったことの証明でもある。「何でも…何でもないの」というスタンスで自分の感情を押し殺してきた幸ではあったが、結果として幸は言いたくなかったことを言い、見せたくなかったものを見せることとなった。それはある意味では彼女の気持ちに気付けなかった祐の責任で、彼が幸に言わせてしまったようなものである。(つづく)

 

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