ジョイナス最後の戦い

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高見侑里アナを忘れない

気が付いた2020年も終わりが近づいている。ほぼ年末といっても過言ではない。

ところで去年の年末、俺は何をしていたんだろう?

小一時間考えて、脳裏に浮かんできたのは高見侑里アナの涙。そうだった。高見侑里アナがBS11競馬中継を卒業することに俺はショックを受けていた。なぜ俺はそんな大事なことを忘れていたんだろう?

高見侑里アナがいない競馬なんてキライだ!次の重賞までやめてやる!」

俺は拗ねていた。まるで母親に我が儘を言う子供のように高見侑里アナを求めた。しかし画面の向こうの高見侑里アナは俺を叱ってくれない。2人は平行線。決して交わることはない。

彼女は女子アナ。俺は視聴者。

「もっと違う設定で、もっと違う関係で出会える世界線を選べばよかった。」

流行り歌のフレーズを口にしながら、俺は苦笑いを浮かべた。選べるものならとっくに選んでいた。選べなかったから、苦笑している。何かあったら笑えばいいと、そんな陳腐な処世術を自分は身に着けていた。自分を誤魔化すことだけには自信があった。

しかしなぜだろう。笑っているはずなのに。笑い飛ばそうとしているはずなのに。なぜ涙が俺の頬を伝っているのだろう。

30過ぎの男が女子アナの想って泣いている。気持ち悪い。惨めだ。苦笑を自嘲に変え、自分に鞭を打つ。それでも涙は止まらない。高見侑里アナが見えなくなるほどに視界は滲んでいく。高見侑里アナの輪郭がどんどんぼやけていく。高見侑里アナと交われないどころか、姿を見ることすら許されないというのか。そんなことがあっていいのか。

いや、これが俺の運命なのだ。愚かにも女子アナに近づこうとした男への天罰なのだ。そういって自分を納得させようとしたその瞬間、どこからともなく嗚咽が聴こえてきた。

涙を拭ってテレビを見ると、高見侑里アナが泣いていた。

 

───あれから数か月。俺はまた傷ついていた。鷲見玲奈アナが胸にパッドを入れていたことが元交際相手の男性の口から明らかになったからだ。

世の中は嘘と偽物で塗り固められている。鷲見玲奈アナがバストのサイズを偽るのも、俺が苦笑いで自分の心を誤魔化したのも、偽りだらけの世の中ではごく当たり前のことだろう。

だけど俺は信じたい。高見侑里アナの涙が本物だったということを。俺と彼女が交差したあの日のことを。