ジョイナス最後の戦い

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笑えない制裁———「ぶらどらぶ」感想

今さらだけど感想。

押井守久々のテレビシリーズという前触れだったが、個人的には西村純二の最新作としてずっと注目していた。*1配信のタイミングは今年の3月だったが、ウマ娘に時間を吸われたせい*2で全話視聴し終えたのは先月ほど。

率直な感想を言うと、個人的には面白いんだけど‥‥というのが本音。

見どころはけっこうあったが、個人的に一番印象的だったのが12話の「インタビュー・ウィズ・マイ」。トム・クルーズ主演映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994)」*3になぞらえて、吸血鬼マイに彼女の過去をインタビューするという内容だ。

西村の過去作「グラスリップ」は「言いたくても言えないこと」を抱える相手に対し、自発的に相手の立場を経験することで相手を理解する内容であった。一方「インタビュー・ウィズ・マイ」ではマイの食事に睡眠薬を混ぜ、眠った彼女に催眠療法をしかけるというモラルのない手段によって強引にマイの過去が暴き立てられる。真摯なアプローチを描いたグラスリップと比べるとその悪趣味さは歴然だ。 

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悪趣味さは1話から全開だった。献血部を結成するために保険医の血比呂が一肌脱ぐ。言うまでもなく「一肌脱ぐ」というのは「力を貸す」という意味の慣用句であるが、ここで血比呂はなんと本当に脱ぎ、ヌードを見せつける。「芸術的必然」などと嘯くが彼女が全裸になる必然性などどこにもない。そこには年増の女性の裸を見せつけたいという意図しかない*4

くどいほどのシネフィル趣味も悪意を感じるほどであった。押井は「『アメリカの夜』や『ひまわり』、『吸血鬼ゴケミドロ』なんて誰が知ってるんだよっていう話でね」」とインタビューで開き直っている。*5視聴者がついていけないことを分かっていながらやっている。もちろん俺もぜんぜんわからん。これが基礎教養だというのならファスト映画は直ちに合法化されるべきだろう。

こうした「お前らは嫌かもしれないが、俺がやりたいからやる」という姿勢はキャラにも落とし込まれている。体罰教師の血比呂やシネフィル女のマキはもちろん、需要のないキメラ型の血液の持ち主なのに「献血マニア」の主人公・貢も大概だ*6。6話で風紀委員の仁子が見せた蜷川幸雄の「公開パワハラ」のパロディもいい例だろう。

他人を顧みずエゴを貫く人間は制裁を受けるのが世の常。しかしながら「うる星やつら」のラムのあたるへの制裁がそうであるように、不条理コメディにおいてはエゴイストたちへの制裁はギャグになってしまう。

ところが「インタビュー・ウィズ・マイ」においては突き付けられる制裁は一切笑えない。マイの過去を無理やり暴いた貢たちは、マイの悲惨な過去と不都合な事実を知り、何とも言えない気持ちにさせられる。事実を突きつけられるという罰。罰を受けた彼女たちはフィルムを封印する。エゴを引っ込め、哀れなヴァンパイア少女の宿命の一片を担ったことを自覚させられる。不条理コメディとして描きながら、エゴイストたちが最後の最後に笑えない制裁を突き付けられることに、私はすごく面白みを覚えた。

もちろん不条理コメディとしてもそれなりに楽しめた。ギャグが古いとは思ったが、声優の演技がとてもよかったので笑うことができた。特に血比呂役の朴璐美とマキ役の早見沙織の功績はアカデミー賞ものである。あと、ワイプ演出については西村回よりは押井回の方がドタバタ劇にテンポよくハマっていたように思えた。

インタビューを読む限り、押井守は本作における自身のエゴイズムにかなり自覚的である。一方、本作のラストで描かれた事実を突きつけられるという制裁に、どこまで自覚的なのかは定かではない。ただ一つ確かなのは――—本当に哀しいことだが——本作品にも制裁が下されるということだ。視聴者の評価という事実制裁が。

*1:押井守のことをよく知らないので

*2:もうやめた。水着のデザインをパクろうが、Pカップがつまらなかろうが、俺はシャニマスを捨てられん。

*3:ちなみに自分は見たことない。

*4:「本当に脱ぐことはないだろ」というツッコミ待ちのギャグかもしれないが、俺は笑えなかったのでおそらくギャグではないだろう。

*5:押井守が『ぶらどらぶ』に込めた「自分が面白いこと、やりたいこと」 | アニメージュプラス - アニメ・声優・特撮・漫画のニュース発信!

*6:貢のキメラ型設定ははみ出し者属性を示すものだと最初は思ったが‥‥